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Passkeyは破られたのか ― Pass-ta-keyとPass-the-Passkeyから学ぶ

Executive Summary

2026年に公開されたPasskey関連研究は、「Passkeyの公開鍵暗号が破られた」ことを示すものではありません。主に狙われたのは、侵害済み端末上の実装、同期PasskeyのCloud Authenticator、User Verification (UV) の扱い、オンボーディングや回復フロー、ログやメモリです。1

特にUnit 42のPass-ta-key研究はGoogle Password Manager / Chrome / Windowsを対象に、端末上にマルウェアが存在する前提で、User Verificationを迂回したり、同期Passkeyを復号可能にしたりする攻撃を示しました。一方、SpecterOpsの「Pass-the-Passkey」はWebAuthn/FIDO2の実装・認証フローを対象とした別系統の研究群です。

したがって結論は、Passkeyをやめることではなく、Passkeyを「端末侵害・回復・同期・RP検証を含むシステム」として設計することです。

なぜ今なのか

Passkeyはフィッシング耐性が高く、パスワードやOTPの多くの弱点を減らします。その一方、普及が進めば攻撃者は「秘密鍵を直接盗む」以外の方法を探します。2026年の研究は、まさにその攻撃面がPasskey周辺の実装・端末・Cloud同期へ移っていることを示しました。

まず用語を分ける

Pass-ta-key ― Unit 42

Unit 42が2026年8月3日に公開した研究で、Google Password Managerの同期PasskeyとCloud Authenticatorを対象にしています。研究では次の3種類が整理されています。

  • Pass-ta-key: 侵害済み端末上の非特権マルウェアから、ユーザー操作や端末UnlockなしでPasskey認証を悪用するシナリオ
  • Silver Pass-ta-key: UV Keyの登録フローを悪用し、攻撃者側のKeyをUser Verification用として登録するシナリオ
  • Golden Pass-ta-key: Security Domain Secret (SDS) を得て、同期Passkeyの秘密鍵を復号するシナリオ

Unit 42は、すべての攻撃が初期段階で被害端末にマルウェアが存在することを前提としていると明記しています。

Pass-the-Passkey ― SpecterOps

SpecterOpsがBlack Hat USA 2026で扱った研究群は、Windows上のWebAuthn/FIDO2認証フロー、Assertionの捕捉・再利用、実装上の挙動などを対象としています。名前は似ていますが、Unit 42のPass-ta-keyとは別の研究です。

User Verification (UV) は何を保証するのか

WebAuthnでは、Authenticatorが端末ローカルで利用者を確認したかどうかをUVフラグでRelying Party (RP)へ伝えます。Googleの開発者向け資料でも、常にUser Verificationを要求したい場合は userVerification = "required" とし、サーバ側でUVを検証する考え方が示されています。

Unit 42研究の重要な点は、「UV=requiredなら端末侵害後も絶対安全」という単純な前提を崩したことです。Silver Pass-ta-keyでは、本来のUV Keyを直接抜き出すのではなく、新しい攻撃者制御KeyをCloud Authenticatorへ登録することでUV済みのように扱わせる経路を示しました。

つまり、UVそのものの概念が無意味なのではなく、UV Keyの登録・Attestation・回復フローを誰が信頼するかまで含めて保証する必要があります。

「秘密鍵がTPMから抜けなければ安全」ではない

デバイスバウンドKeyがTPM等から直接抽出できないことは重要です。しかし端末が侵害されると、攻撃者はKeyそのものを抜く代わりに、

  • 正規プロセスに署名させる
  • オンボーディング状態を操作する
  • 同期データやメモリから別の秘密情報を狙う
  • 回復・再登録機能を悪用する

といった方法を取れます。これはPasskeyに限らず、ハードウェア保護Credential全般で重要な脅威モデルです。

経営インパクト

誤解 実際の論点
PasskeyならEndpoint Securityは不要 端末侵害は依然として重要な前提条件
秘密鍵を抽出できなければ安全 署名オラクル、回復、再登録、同期が攻撃面になる
UV=requiredだけで十分 RP側検証に加え、Authenticator側のUV Key管理も重要
Passkeyは「一つの製品機能」 RP、Browser、OS、Authenticator、Cloud同期の連鎖
研究が出たのでPasskeyは危険 Password/OTPより減らせる攻撃面は依然大きい

日本企業への示唆

Passkey導入を中止する理由にはなりません。むしろ、パスワード・SMS/OTP・Push型MFAに比べてフィッシング耐性を高める価値は大きいままです。ただし、導入判断を「FIDO対応か」だけで終わらせず、同期方式、端末保護、回復、RP実装を評価します。

特に高権限管理者や重要業務では、同期PasskeyとデバイスバウンドFIDO Security Keyをどう使い分けるか、端末侵害時の再認証・Credential失効をどう行うかを決めておくべきです。

推奨アクション

  1. RPでUser Verificationを必要な用途に対して明示的に要求し、UVフラグを検証する。
  2. Passkey Provider / Credential Managerの同期・回復・デバイス登録設計を評価する。
  3. EDR、Browser更新、OS更新、Credential Guard相当のEndpoint対策を維持する。
  4. 高権限アカウントではデバイスバウンドAuthenticatorを含む強い方式を検討する。
  5. MFA/Passkey再登録・アカウント回復を高リスク操作として監視する。
  6. Passkey失効・端末紛失・端末侵害を想定したRecovery Runbookをテストする。
  7. 「Passkey導入率」だけでなく、フィッシング可能なFallback認証の残存率を追う。

用語解説

UV (User Verification)
Authenticatorが、PINや生体認証等を用いて端末ローカルで利用者を確認したことを示すWebAuthn上の情報。

UV Key
Google Password ManagerのCloud Authenticator実装で、OSのUser Verificationと関連付けられるKey。WebAuthn一般の標準用語としての「同期Passkeyの必須構成要素」ではなく、特定実装の内部概念として理解する必要がある。

SDS (Security Domain Secret)
Unit 42が分析したGoogle同期Passkey実装で、同期Passkeyの秘密データ保護に使われるMaster Secret。

Relying Party (RP)
WebAuthn/Passkeyを使って利用者を認証するWebサイトやサービス側。

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参考情報